雑談

 本人も気がついているとは知らなかったが、この女性はストレスが溜まると片方のまぶたが閉じる。薬局に入ってきたときからそれで心の平安の程度が量れる。今日はしっかり閉じていたからストレスは溜まっている。ほとんど閉じているから、「それでも見えるの?」と尋ねてみたら、見えるらしいから不思議だ。ほとんど瞼が閉じられているのにどうして見えるのだろう。 心ウキウキの漢方薬をもう随分飲んで頂いているが、この人には慌てて薬を作らない。目一杯雑談をする。いつも優しく見守ってくれるお嬢さんと一緒に来るから、3人でお喋りをする。何の偶然か分からないが、この二人が来る日は必ずと言っていいほど我が家には美味しい頂き物がある。今日も1時間くらい前に頂いた最中があったから、ハーブティーと一緒にもてなした。くだらない話をしていくうちに、その方の表情が和らぎ、ごく普通のおばさんに戻っていく。  一頻り話すと心が落ち着くのか色々なことに興味を示す。薬局の入り口には娘が集めている花や観葉植物がおかれている。その中の観葉植物の葉に一匹のバッタが止まっているのを見つけた。身動き一つしないから余程注意深く見ないと分からないと思うのだが、良く見つけたと思う。牛窓の人間だからバッタくらい珍しくないと思うのだが、母娘で喜んでいた。僕もあまり賑やかなので見るとなるほどまるで造形物のように身動きしないバッタが葉っぱに止まっていた。まるで美術作品のように見えた。もうその頃には女性の表情は随分と明るくて笑顔も沢山出る。  漢方薬を持って帰るときにも又同じ観葉植物の前で立ち止まり、又バッタの話題かと思ったら、「この木はなんて言う気なの?」と今度はバッタが止まっている木に興味を示した。そこで植物にはめっぽう詳しい僕が教えてあげた。「ナリユキ(成り行き)」と。母娘にとても受けた。これで又2週間、心穏やかに過ごして頂ける。