過敏性腸症候群

 その女性と話をしていてつくづく思った。20年前にただ単に検査結果を聞き、薬をあてがわれるだけでなく、その症状の成り立ちなどを医師から説明してもらえていたら、こんなに長く苦しまなくて良かったのにと。 果たして医師が告げた病名が正しかったのか僕には疑問だ。ややこしい訴えをしてきた人に簡単に納得してもらえるのにとても都合の良い言葉がある。時に乱用ではないかと思ったりする。今日の女性もその乱用の被害者ではなかったのではと感じた。もっとも専門家の診断に僕みたいな田舎薬剤師が口を挟むのは失礼かもしれないが、一人の女性が20数年を無駄な不安感の中で過ごさなければならなかったことを思うと、少しは批判をしたり口を挟んでもいいだろう。 新幹線を利用してやって来てくれた女性の帰るときの顔が全然別人だったと娘が言った。僕はずっと話をしていたので、表紙と裏だけを見た娘の方がその変化に敏感だったのかもしれない。自分の症状をひょっとしたら初めて理解してくれたかもしれない。医師の説明不足やインターネットによる虚偽情報の収集等で、もつれにもつれた糸をもう解くことができないくらい追いつめられていたが、平易な、いやもっと品のない牛窓弁で説明すれば分かってくれる。学問では僕ら凡人は治すことは出来ないけれど、難解とはほど遠い、笑いながらまるで冗談のように治すことは出来る。これこそが何の縛りもない凡人の特権だ。それを利用しない手はない。