脱帽

 ニュースなどでは時々見かけていたから、知らないわけではないが、今日たまたま見かけたからこれが噂の「ひじ鉄」だと思った。いや、ひじ鉄ではなかった、何という名前だったっけ。きっと最近作られた造語だろうから、なかなか思い出せない。確か鉄がついたと思うのだが。錆び鉄?近鉄?砂鉄?いや生き物だったと思う。魚?両生類?ほ乳類?いや鳥類だ。そうだ鳥類の鉄だ。鳥鉄だ。撮り鉄だ。  街中を走る路面電車を写す人達のことも撮り鉄というのだろうかと考えながら、初めて見るカメラを首から提げた集団をあちこちの電停で目撃した。時に橋の欄干に陣取っている個人もいたが、ほとんどは電停の少し離れたところからシャッターチャンスを狙っていた。不思議なことにと言うか、さもありなんと言うか、全員が男だった。それもほとんどの人が僕より年上のように見えた。そんなおじさん達が、同じものを持ち、よく似た服装で、同じ方向を向いている姿は、なんとも滑稽だ。服を替えればほとんど幼稚園の写生大会だ。 ひょっとしたら見かけだけではなく、心も幼稚園児と同じかもしれない。本当に電車が好きで、まるで幼子のように楽しめる人達なのだろう。健全な遊びだし、理解できる郷愁だし、好奇心が旺盛なのも良いことだし、何ら批判されることではないのだろうが、ただ端から見れば結構滑稽だ。ただその滑稽をものともしない飽くなき好奇心にはただただ脱線だ、いや脱帽だ。