倍率

 「成績がついてこなかったので、大和さんみたいな薬剤師になれませんでした」と母親が言ったのは明らかに謙遜だ。別に知りたいわけではないが、就職活動の面接で緊張しすぎるきらいがあるから漢方薬をお世話した関係で、現在の様子が分かった。関西の大学の修士課程に在籍しているらしい。だから薬剤師になろうと思えばなれていたはずだ。それよりも見るからに善良そうに素朴に育っているお嬢さんがまぶしかった。小学生の頃から知っているが、あまりに純粋すぎて、ここ一番で実力が出せれないのだろうが、そんな一発芸より数段高尚なところで勝負、いやそんなことをしなくても誰もが人格を認めてくれそうな女性に思えた。 実は僕を見て薬剤師になりたいと思う子供達は意外と多い。いつものんびりと楽しそうに仕事をしているからだろうが、もう一つ実は、僕を見て薬剤師には決してなるまいと思う人はその何倍も多い。いわば僕は夢の壊し屋さんだ。清潔な白衣から知性がこぼれそうな薬剤師ならいいが、ボロボロの白衣にぴったしのボロボロの言葉とボロボロの精神では誰もが後に引くだろう。僕のおかげで、全国の薬科大学の入試の倍率が下がっているようなものだ。倍率どころか薬剤師の評価も下げに下げまくっている。  お母さんに「薬剤師になるのは簡単です。顔が良ければいいんですから」と答えるとお嬢さんにも大受けした。顔もスタイルも薬剤師にぴったしのそのお嬢さんは心で思っただろう「薬剤師にならなくて良かった」と。