鈍足

 悲しいかな、一度にいつもの昼食の10倍くらい高価な食事を頂いてもそんなに感慨はない。余程食べ物に興味というか好奇心がないのか、次から次に出される料理を口に運んでいるだけだった。ただ同席の漢方の仲間は、先生を始め皆謙遜な方で、心の穏やかさは他の勉強会では味わえない雰囲気だ。唯一脱落せずに30年近く続けられたものだから、余程その雰囲気が僕に合っているのか、僕に合うように幸運にも変わってきたかなのだろう。寧ろ後者かもしれない。僕が入会させて貰った頃は多くの女傑がいて、決して居心地がよいとは言えなかった。それが次第にそうした方に限って退会していったので、穏やかで誠実に仕事をしている人達だけが残った。先生以外決して有名店にはなれないが、少なくともなくてはならない薬局には皆さんなっていると思う。 高邁な講演をして煙に巻くようなことは一度もなく、地域に帰ったら早速必ず誰かを助けることが出来る知識を頂き続けたから、色々なハンディーを持ちながらでも皆さん長く薬局を経営してこれた。僕みたいに極端な田舎で営業している人はさすがにいないが、それでも羨ましいような環境の人はいないと思う。経済的に大きな見返りを求めれば余程のカリスマでない限り見抜かれて信頼を失う。一人ずつ誠実に向き合い、より良い結果を求め続けたおかげで、皆さん又こうして新年を迎えることが出来る。  食事の時はさすがにとりとめもない話になるが、それでも誰かが頑張らなければ効く漢方薬が伝承されないから、話の端々に小さな自負とか決意が聞き取れた。この年齢になって、明らかに頑張る理由が嘗てとは変わったことに気がつく。鈍足の僕が、時や年齢にやっと追いついたのだろうか。