選択

 話の前後は忘れたが、上の姉が「薬も飲んでいないし検診も受けていない」と言った。僕はそれでいいと思う。そのどちらもが必ずしも健康や長寿を約束してくれるものではない。薬で救われないものもあるし、健診で見落とされるものもある。そもそも統計的に何ら抑止効果がなかったと話題になっている健診さえある。寧ろ神経質に健康が全てのような生活を送って、やりたいことをセイブする方が余程生活の質を落としてしまう。昔みたいに、老いて役に立てれなくなれば自然に消えていった頃と違い、老いて役に立てず喜びも少なく、それでも生きながらえることを思えば、悪戯な不健康寿命はどうかと思う。 ここまで書いて話の前後を思い出した。やはり母のことを話していてそう言った言葉が出てきたのだ。つい最近までその健康と聡明さに驚きを持って感謝していたのに、今はその面影はない。順調にありとあらゆる能力を失いつつある老人そのものになっている。職業柄多くの体験者の話を聞いているから、予備知識は十分あったはずだが、現実に展開される光景は「あわれ」という言葉が一番相応しい。読み終えた本をそっと閉じるように人生の最後を安らかに迎えて欲しいと日々祈り、そしてそれが唯一の希望だとしたら、姉の選択が正しいように思えて仕方ない。