憤懣

 背中が痛いのが治らないから漢方薬を作ってと言ってやって来たのだが、漢方薬を作っても帰らない。何か言いたいのだろうと思ったが、案の定、後から後から不満が出てきた。 序章は牛窓にお店が少ないってことだった。正確に言うと減ったと言うことだろう。増えているのは宿泊施設くらいで、これはホテルからペンション、民宿まで相当な数だ。これだけバラエティーに富んだ宿泊施設が揃っているのは県内でも他にないかもしれない。ただそれは住民にとっては関係ないことで、憤懣やるかたない彼が問題にしているのはごく日常の買い物のことだろう。今に始まったことでないことを今に始まって殊更問題にしたのは、二日連続で彼がひいきにしている食料品店でお釣りを間違われたかららしい。初日は20分くらいもめたらしい。二日目は向こうがすぐに謝って訂正してくれたから即解決したらしいが、さすがに連ちゃんには呆れたらしい。ただ彼が律儀なのはその後もそこのお店をひいきにしているところだが、一度口から出してスッキリしたかったのだろう。僕はそこのお店の家族を良く知っているので、どちらかの肩を持つことが出来ないから提案した。「○○さん、食料品店を開いたら。退職金をつぎ込めばいいが!」と。彼は体を折るようにして笑いながら「もうかるもんか」と言った。 息子さんはとても真面目な方で結構働き者だ。ある食べ物を造っている工場で働いているが、残業代が出ないらしい。オーナーに頼りにされているとも思えるが、家族としてはうまく利用されているととっている。オーナーの家庭内の問題を出して責め立てたから僕は提案した。「○○さん、独立して父と息子で○○屋さんをすればいいじゃない!」と。彼は体を折って笑いながら言った。「もうかるもんかと」と。  彼の家の隣は立派な邸宅だが今空き家になっている。眺望も良くそれこそ東北や関東から逃げてきたい人には打って付けだ。「植木を庭に一杯植えて売りに出したから、その木の枝がうちまで伸びてきて困っている」と言うから「○○さん、不動産屋をして放射能から逃げてくる人を助けてあげたらいいが」と提案すると「もうかるもんか」とまたまた体を折って笑った。  「店が少ないと嘆いても仕方ないから、○○さんが商売を始めればいいじゃないの。お店が一杯出来るよ」と言うと「もうかるもんか」と笑いながら出ていった。背中の痛みは何処に行ったんじゃあ~