絶滅危惧種

 あれはナイル川、いやチグリスユーフラテス川、いやいやドナウ川だったっけ。日本語名ではなかったから信濃川ではないし・・・そうだあれはたしか南米の川だったからアマゾンだ。  30年前に買ったある漢方の本を未だ使っているので、もうボロボロだ。一冊の本がまるで数冊に分かれている。辛うじて糊が残っているところがあるから、一冊の本として体裁だけは保っている。しかし、毎日漢方薬を作るとき開くものだからかなり不便になってきた。もう愛着を通り越して暇を出してもいいくらいだ。ところが今時そんな本が市場にあるかどうかは疑わしい。岡山の大きな本屋さんに行き、注文を出してもらってと考えると、なかなかそのタイミングがない。そこで娘に相談してみると、僅か数分で「注文したよ」と返事が来た。なんとまだその本が存在していたのだ。誰が一体買うのだろうと思うが、その生命力に感謝だ。  朝一でやってくるクロネコヤマトがその本を運んできてくれた。存在すら疑っていた本が、翌朝には僕の手元に届いている。たまにその会社の名前は聞いていたが、さすがミシシッピー、いやアマゾンだ。どのくらいの規模で、どのくらいの設備で、どのくらいの人材がいて、どのくらいの売り上げをして・・・何も知らないが、これは全国の書店に対してはとてつもない脅威だ。僕が知らないだけで多くの書店がこの会社のために店を閉めているだろう。ある意味では罪深い会社だが、これだけの圧巻ぶりを見せてもらえば、草木がなびくのも理解できる。  こうしてあらゆる業種が大きなものに集約していくのだ。もう随分前から薬局などその傾向が強かったが、何故か僕の薬局は薬業界のアマゾンに負けていない。ほとんど絶滅危惧種の僕だが、その絶滅危惧種が最強の農薬に注文を出し他業種の絶滅に手を貸すのだから、巻かれたくなくても強いものに自ずと巻かれていくものの哀れを体現している。  ジャングルの中のどう猛な動物を連想させるそのネーミング通りの貪欲な食欲に、企業家の意図が読みとれる。