ちんぷんかんぷん

 最初からちんぷんかんぷんだった。朝の9時から祈祷が始まるから来て下さいと言われていたので、区内の小さな神社に行ったら誰もいなかった。そのまま帰ろうとしたのだが何となくもう一つの可能性として薬師堂を思いついたのでそちらに行ってみるとすでに部落の役員が集まっていた。春祭りの恒例の行事らしく、役を引き受けた去年から出席しているが、去年はたしか神社でご祈祷をした記憶がある。 10人くらいの役員に交じって開始を待っていると、お坊さんがやってきた。祭りにお坊さんとは不思議な組み合わせだと思ったが、ほとんど興味の対象外だから、読経を心地よく聞いていた。お坊さんの読経に合わせられる人が2人いた。80歳を過ぎているおばあさん達だった。男は一人を除いて僕よりかなり年上の人ばかりだったが、誰一人唱和できなかった。何れこういったしきたりも消えていくのだろうなと一人考えていた。   儀式が終わった後、お坊さんを送ってから少しの間みんなで談笑をした。そのうち一体何を奉っているのだろうと言うことになって、鍵がかかっている祠の中を見てみようと言うことになった。それを言いだしたのはこの春から区長を引き受けた僕より一つ年下の男性なのだが、前の区長がすぐに、この祠は12年に一度しかご開帳されないと諭した。どうして12年に一度しか開けてはいけないんだろうと当然疑問の声が挙がったが、勿論それに答えられる人はいない。言い伝えをひたすら守っているだけだ。ただ今回の区長は余りその様なことにこだわる人ではなくて、見るだけならいいだろうと言いながら、自分があずかっている鍵で開けようとした。そこでいつも冷静沈着で通っている僕がみんなを諭した。「たたりがあるぞー」「八つ墓村のたたりじゃー」すると一人の男性が「ワシは、絶対見ないぞ」と言い残して堂を出ていった。  その後、興味がある人は中の弁天様を拝み、ないひとは雑談にふけった。春祭りに、薬師堂に、弁天様に、さっぱり訳が分からないが、所詮この種のことにはちんぷんかんぷんなので、香の香りを楽しんで五月晴れの朝をただただ安らかにした。