美徳

 なかなか上手いことを言うものだ。正式な呼び方か、誰かが考えたユーモアか知らないが、感心しきりだ。  正体が見えないからステルス。結局は販売目的だからマーケティング。合わせてステルスマーケティングと言うらしい。最近のステルスマーケティング横綱はトマトと漢方薬らしい。漢方薬は専門だから怪しいなと思っていたのだが、トマトもそれだとは思わなかった。しっかりと僕もそれにのせられてスーパーに出かけたのだが、買い物籠をぶら下げてトマトを買う姿など自分で想像してもいやだったので、結局は甘栗を買って帰った。トマトが栗に変わる必然性はないのだが、僕の美学では甘栗を買う男は格好いいのだ。ついでに焼き芋を買う男はもっと格好いい。  僕に教えてくれた物知り君によると、トマトを仕掛けたのはデルモンテと言う会社らしい。トマトの製品を多く販売しているらしい。ところがその仕掛けにはおちがあって、日本ではデルモンテという会社の知名度が高くないので、多くの消費者がカゴメのトマトジュースを買ったらしいのだ。カゴメはまさに漁夫の利を得たわけだ。トマトだから農夫の利か?  まああの手の漢方薬は恐らく効かないし、あの手のトマトジュースを何杯も飲めるわけがないからどちらも大した罪はない。ステルスと言っても実害はない。ところが安全宣言の乱発による放射能ステルスは笑い事ではすまされない。閉じこめておくべきものを絆と言う言葉でカムフラージュして、商材にされてはかなわない。  無防備は決して美徳ではない。だらしなく下げたガードに巨悪は容赦なく襲いかかる。しっかりと見て、しっかりと聞いて我が身を守らなければ。