小利口

 田舎に住んでいるからひれ伏すような立派な人にはお目にかからない。そこそこ立派な人はいるけれど、足元にも及ばないと言うようなことはない。だからいたずらにコンプレックスを抱くことなく日々が穏やかに過ぎていく。ところがたまに田舎には小利口な人がいて、運悪く遭遇しそうなものならそれなりにストレスを受ける。ひょっとしたら才能も能力もないのに自分で利口だと思っている分余計やっかいなのかもしれない。 小利口は田舎の特許かと思っていたらそうではないらしい。もっと人が多く住むところでも、また全国を股にかけているところでもどうやらそれは増殖中らしい。小利口が世にはばかっている。小利口に最も欠けているのは正義だ。倫理と言ってもいいのかもしれないが寧ろ正義と呼びたい。本来的に学べなかったのか、理解できないのか、それともこだわらないのか知らないが、およそ思考、行動の規範として存在しない。  正義は勝たなくなったのか、勝てなくなったのか、それとも元々勝たないものなのか知らないが、ますます形勢が悪くなっている。だからその劣性のものを殊更尊ぶこともないのだろう。追い求められもせず、価値も置かれない。そのうち小利口が胡散臭い正義を振りかざして市民をひれ伏させる。  崖っぷちに追いやられてもまだ深い谷底が見えないお人好し。