理由

 同じように勉強してきても、その知識を生かすチャンスに余り巡り会えなかったのかもしれない。勉強会を脱退する理由が経済だったら気の毒だ。 漢方薬が好きで始めたのか、必要に迫られて始めたのか分からないが、何年も時間と労力を費やしても、生活を支える基盤にならなければ、この先勉強するモチベーションは保てれないだろう。  僕は好きで始めたのではない。必要に迫られて始めたのだ。元々生薬学で留年したくらいだから、そんなに漢方薬に関心があったわけではない。しかし、僕自身や家族が漢方薬で救われる経験をすれば、俄然この学問を生かさない手はないと思った。その為に要する経費は全くもったいないとは思わなかった。得た知識をすぐに実行に移すことが出来る状況が僕の薬局にはあったから、どんどん学んだことを追試して漢方薬の力を体験した。 決して華々しくはないが、地道に地域の健康に貢献している薬局がある。ところがそんな薬局に限って商売下手だから店を閉じる確率が高い。皮肉なものだ、残るのは雑貨の如く医薬品を売りさばくところと、不幸につけ込んで法外な料金を取るカリスマだけだ。中間が消えてしまう。あたかもあらゆる国で進行している中間層の消滅に似ている。両極端が見えぬ壁で完全に仕切られて、憎悪を醸造している。  何もしてあげることは出来ない。ただもったいないと思う。自分もそうならないように気持ちを引き締めるが、幸か不幸か立地の悪さで鍛えられた気概がある。慢心できるほど昔も今も環境には恵まれてはいない。だから狸相手にカラス相手にノートをとる。