突風

 多くの地域の人が今日の突風には驚いたのではないか。突如なま暖かい風が吹き出したと思ったら、台風を思わせる、いやそれ以上だったかもしれないが、強い風が物を飛ばし始めた。慌てて裏に出てみると倉庫の上においていた煉瓦までが吹き飛ばされて落ちてきた。飛ばされたものを片づける余裕はなく、まだ飛ばされずに残っていた物を家の中に取り込むのが精一杯だった。風は面積を持っている物にはとてつもなく凶暴で、板やシートがいとも簡単に剥がされ飛んでいった。  東北の津波以来、人は自然に対峙する姿勢が萎えたように思う。あまりの力に脱力してしまったのだろう。少しは人間が謙遜になったかと思うが、臆病にもなったと思う。あまりの力に額づくしかない。制御の効かないものの前でひれ伏すしかない。敵を知らないうちの威勢のいい戯言をくり返されても、最早聞く耳を持つ者はいない。  為す術がないから居直っているのか、農家の方がまだ強風が吹き荒れているときに来た。ビニールハウスが飛ばされたと、なんでもないような言い方をした。それは大変だとこちらは思うが、別に慌てる様子もなく買い物を続ける。自然と毎日、それも何十年もの間対峙してきた人特有の強さか知恵か分からないが、そこには臆病はなかった。  風一つ、雨一つどうしようもない人間の非力を知るために、どれだけの対価をこれからも払わされ続けるのだろう。