勝負

 心療内科でもらっている薬は当然だが、その様子からうつ病であることは簡単に分かる。気力体力をなくし、口から出てくる言葉はマイナスの言葉ばかり。来る度に症状が変化する。僕は訴えの通りに漢方薬を作る。でも僕にとってはすこぶる好感度の高い田舎のおばちゃんにしか見えない。真面目で素朴でなかったら今この様に苦しんではいないだろう。パチンコを勧めても博打を勧めてもそんなこと出来ないととりつく島もない。 漢方薬を作る前に話をする。僕は見ての通り偉くないから問診などしない。雑談専門だ。ため息を連発して寂しがるばかりだから「犬でも飼ったら?」と助言すると「私が飼って欲しいくらいじゃ」と切り返してきた。これは僕もアッシー君で連れてきてくれていたお嬢さんも大受けだった。勿論久々のヒットか本人も大声で笑った。これだけ笑えればすぐに治る。  ギャグ薬局を標榜している僕がこれでやられているわけには行かない。粉薬で作ったのが少しばかり弱そうだから、今週から煎じ薬で治療しようと提案すると、物忘れがひどいから火をかけたまま焦がしてしまうと言って断られた。恐らくそればかりではなく煎じる気力も今はないのだろう。それを無理して強要すると治療のモチべーションが下がり、返ってマイナスだから無理強いはしない。そこで僕が答えたのは「火にかけたのを忘れて家を煎じてしまったら気の毒だから粉薬で作るわ」だ。  どうだこれで僕の優勢勝ちだ。これで勝負あったり。