車線

「思わずガッツポーズをとりそうでした」とまさにガッツポーズをとりながらその女性は教えてくれた。あの恐ろしいパニック障害漢方薬で克服してほぼゴール間近だが、2週間毎に克服した成果が増える。今日は念願のバイパスを倉敷方面に向かって走れたことと(岡山県は圧倒的に西が発展していて車の量は東と比べものにならない)瀬戸大橋を電車に乗って心安らかに渡れたことを報告してくれた。何ら不安感に襲われることなく瀬戸大橋を渡ったとき思わずガッツポーズが出そうだったらしい。そう説明してくれる時の顔が本当に明るいし、自信にみなぎっている。恐らく本来は多くのことが出来る人で、何らかの不運が重なって発症したのだろうから、本来の姿は当然生き生きとしている。 実は今朝の新聞で、かの有名な(と言っても医療人の中でかもしれないが)鎌田實医師が、40歳代の時やはりパニック症状を発症して、かなり悩んでいたらしい。往診に行っても震えて家の中に入れなかったり、夜は奥さんにしがみついて寝たりしたらしい。本人は頑張りすぎたことを反省して、その後は立ち止まったり休むことを覚えたらしいが、あのレベルの人だって発症するのだから凡人が同じ悩みに陥っても不思議ではない。いや、ひょっとしたら僕の患者さん達は、鎌田先生レベルの人だったのだろうか。鎌田先生ほど肩書きもないし、経歴も実績もないし、知名度もないが、先生と同じくらいの優しさはみんな持っている。人を傷つけるのが苦手で自分ばかりが傷ついている。そんな人達が、今日の彼女のように苦痛な日々から脱皮できるのに立ち会えるのは、田舎薬剤師としてはこの上ない喜びだ。この牛窓の町にあるからこそ役に立てるような気がする。我が家の誰も、如何にもそれらしく構えることが出来ないから、すぐに親しくなれる。だから色々な情報を隠さず貰えて非力な僕でも役に立てれるのだと思う。  次は車で瀬戸大橋を彼女は渡るだろう。眼下に行き交う大型船など、あまりの眺めの良さに運転を気をつけて欲しいが、やっと人生の元の車線に戻ってきたのだから、ガードレールにぶつかるくらいいいか。でも取り戻した人生に酔わないでね。