神様

 「さっき喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、ある女性が先生のことを神様じゃと言っていたよ」と、常連の男性が教えてくれた。「なんでも数年不整脈が治らなかったのが、先生の漢方薬で2週間で治ったらしいよ」と付け加えてくれたことで、その奇特な人が誰かすぐに分かった。 「ところでその人は僕のことを何の神様と言っていた?フォークの神様?マネーの神様?金融の神様?競馬の神様?踊りの神様?選挙の神様?受験の神様?短距離の神様?恋愛の神様?捜査の神様?パチンコの神様?野球の神様?サッカーの神様?・・・・」  どうやらどの神様にも当てはまっていないらしかった。こうしてみると神様ってのはギャンブルかスポーツか金の世界に多く住んでいるらしい。本来住んでいそうな精神分野には実は少なくて、勝負や欲望が渦巻くところに出没するみたいだ。その女性に褒めてもらった漢方薬の分野は勝負事も欲望も入る余地がないので地味なものだ。神様も当てがはずれて見過ごしてしまうだろう。  本物の神様には滅多に会えないが、神様になりたがっている人には結構出会う。己の過信さえあればなれるらしい。どうやらそういった人物は寡黙にして人を引きつけるものではなく、多くの雄弁や詭弁を酷使して神に上り詰めるらしい。それが小さな集団ならいとも簡単に成就する。無邪気になりきる方も、無知で崇め奉る方も同じ穴の狢だ。本当の神への冒涜は神を口にする人達の中にあるのかもしれない。 こと信仰に関しては僕も一歩も後に引かないから、その男性に凛として言った。「今度また喫茶店で会ったら、その女性にハッキリ言っておいて、神様と思うならお賽銭をくれと」