回遊

 思わずスピードを落とし、ライトを点けた。お昼をまだ回ったばかりなのに夕暮れ時のような薄暗さに一気になった。これを現代ではゲリラ豪雨と呼ぶのだが、何のことはない、かつて夕立と呼んで親しんでいたものだ。自然の営みにさえ人間様は都合が悪ければゲリラなどと恣意的な名前をつける。いずれゲリラでは気が済まなくて、テロ豪雨なんて言葉も発明されるかもしれない。法律よりももっと上位にあるのはいつの世も金と肩書きを持った輩達だ。法律が人様を律するなんて考えたら馬鹿を見る。弱者の為になんか誰が考えてくれよう。温情と餌を混同してはいけない。  助手席に乗っている異国の若い女性によると、かの国ではその様な雨は毎日のことらしい。おまけにかの国の雨は強い風を伴っているから、自転車に傘をさして乗ることなど出来ないらしい。ただし、その様な雨は日本のように一日中とか数日間とか降り続くことはなくて、せいぜい2時間までらしいのだ。何処かでつじつまを合わせる自然に不遜な人間様のネーミングがやはり気にくわない。 肩こりやリンパの腫れを訴えながら懸命に働いている若い子を今日は鍼の先生達の祭りに連れて行った。無料で鍼をしてくれるイベントだから、僕自身の肩こりも便乗させて、日本の治療と日本人の親切を体験してもらいたかった。若いから効果も出やすくて、たどたどしい日本語で「楽、楽」と何回も繰り返していた。弱音を吐かず異国の地で懸命に頑張っている「貧乏」な若い女性達の豊かな眼差しに日々僕は癒されているが、友人の鍼の先生も彼女に「目が輝いているね」と言ってくれた。いずれ、かの国の人達も豊になり、勤勉とか謙虚とかを置き去りにするのかもしれないが、雨宿りを兼ねて立ち寄った百貨店のファッションフロアで溢れる商品の中を値札を見ながら回遊する浅黒き若き女性に、幸せ多くあれと願わずにはおれなかった。