おかげ

 僕より身長が少し高い。恰幅は格段にあちら様の方がいい。姿勢もあちらの方がいい。背筋がピンと伸びている。大きな体がほんの少しばかりビニール袋に入れた野菜を持ってきてくれた。無造作にカウンターの上に置いて、「わしが作ったんじゃから食べて」と言った。すこぶるゆっくり話す。時速5kmくらいの会話のスピードだ。スピード違反気味の僕は合わせるのに苦労するが、野菜を持ってくるのにも照れている純朴さにブレーキは自然とかかる。  いつものように胃薬と漢方薬を所望する。「ご主人は元気じゃね、同級生で一番元気ではないの?」と尋ねると、二人の名前を挙げて、一人はよぼよぼしてやっと歩いていると言い、もう1人は特別養護老人ホームに入っていると言った。そのうちの一人は僕も良く知っているが、とても同級生には見えない。2kmくらい離れているところから自転車で買い物に来るこの男性と、施設に数年前に入った人が同級生にはどうしても見えない。「90を過ぎて自転車でウロウロしているなんかわしだけかもしれないな」と言うから「えっ、90歳を過ぎているの、絶対そうは見えない」と感嘆の声をあげると「ヤマト薬局のおかげじゃ」なんて可愛いことを言う。「僕もそう思う、僕のおかげじゃ」と返すと「ヤマト薬局の建物の半分くらいはわしが立ててやったようなものじゃ」と一転して可愛くないことを言うから「ご主人のおかげは、この植木鉢一つくらいだわ」と返してやった。  大学を出て何の役にも立てなかった頃から、いやそれ以前父の代からずっと来てくれているのだが、元気で長生きを日々実践してくれているような人に関われたのは幸いだ。その逆は職業柄否応なく沢山経験させられるが、いくつになってもこのようなたわいもない会話を楽しめる健康を多くの人に得てもらえればと思う。