騒動

「何か恨まれるようなことはなかったですか?」と尋ねられても思い当たる節はない。そもそも何でそんな質問をされなければならないかと思うし、まるでテレビ番組の刑事物を地で行くような質問に、まるでテレビ番組の刑事物を地で行くような答えを返した。「人に恨まれるようなことはしていないつもりだけど」と。でもこれでは単なる不快な日常の出来事で終わってしまいそうなので、一念発起して次のように言った。「でも考えてみると僕はこの整った顔でしょ?品もあるし性格はいいし、何不自由していないし、羨むなって言う方が無理ですよね?」と言うと、警官はやおら腰から拳銃を抜くと僕の土手っ腹に突きつけた。(念のためこの最後の部分はフィクション)  そもそも事の発端は、昨日来てくれた電気屋さんの若者がクーラーの室外機の天井板にあいた穴を見つけてくれたことから始まった。クーラーのスイッチが入らないから点検を頼んだのだが、原因はブレーカーが落ちたせいというのを簡単に見つけてくれた。ところがその穴を見て彼は誰かの悪戯だと言った。クーラーが働かなくなるような悪意のあるものだと言うから、セコムに連絡した。セコムは隣の県から備前あたりまでクーラーの銅線を狙った窃盗が流行っていると教えてくれた。だから警察に連絡しておくべきだと助言してくれた。そこでやって来た警察官が冒頭の質問を僕にしたのだ。  薬局にくるその種のことに精通した人達数人に穴を見てもらった。塗装の仕方、はげ方、錆び方、色々な蘊蓄がかわされたあげく、今になって開けられた穴ではなく、最初から開けられていた穴と落ち着いたのだが、半日右往左往した。田舎だからとつい無防備に暮らしているが、近所の電気屋さんが室外機を盗まれたことも知った。それなりの警戒心を持つように諭されたが、残念なことだ。雨の日に偶然クーラーが止まった事から始まった騒動だが、結構無駄な時間を使ってしまった。何もない1日に感謝することなどなく、不満たらたらだったが、何もない1日がこんなに愛おしいとは考えもしなかった。