電文

 「○○です。漢方、よろしくお願いします!仕事、毎日はいつくばって行ってます!! 」  まるで電文のように簡単明瞭だが、彼女の決意が良く表されている。せっかく手に入れた社会の一員としての立場だから手放してなるものかと必死なのだろう。この必死をいつまでも続けてほしいと思う。  高校生活を捨て、友人を捨て、ありふれた青春の情景を捨て、孤立を余儀なくされている人は一杯いる。青春は同心円を忘れていびつな形になる。感情は研ぎ澄まされて刃物になる。生産は破壊の前で沈黙し、音もなく時計の針だけが無機質に回転する。  風評被害放射能だけではない。過敏性腸症候群風評被害の最たるものだ。若者に臭いが漏れないと言うパンツをはかせ、何をなそうというのだろう。そんなもの必要ないと断言することこそが大人のなすべき仕事だ。何もかも失いそうな青年にあり得ない症状を植え付け、何かを販売するのは良くない。占いでもあるまいし、強迫観念を利用した商売は良くない。我が子だったら同じ口上で同じものを販売し使わせるだろうか。我が子に出来ないようなことを大人がしてはいけない。我が親やわが祖父母にオレオレサギを働けないのと同じように、出来ないことだと思う。生命力溢れる青年達に、大年寄りでもあり得ないような症状が出るはずがない。ありもしないことで脅してはいけない。  とても優しい顔をして、とても優しい話し方をする彼女の必死の覚悟は恐らくすぐに時間が解決してくれる。彼女が職場で大切にされないわけがない。傷みを覚え、傷みを理解できる能力が職場で華を開くだろう。いつか彼女の口から過去多くの人が言った言葉が出るだろう、「無駄なことなんてなにもない」と。