寝坊

 中学生が部活動で登校して来る第一陣は毎朝7時頃だ。何の部か知らないけれどずいぶんと熱心なものだ。彼らに会うと不審者にでも勘違いされそうなので、それまでにはテニスコートから出ることにしている。今は夜が明けるのが早くなったから朝の6時半と言えば十分明るくて、太陽の光も浴びることが出来る。平日はもやしみたいな生活をしているからこの20分の太陽は有り難い。  なんだか寝坊をしたみたいで、散歩に出かける前の新聞読みにいつものように30分を費やすと7時が来そうだったから、習慣になっているマッサージ機上の新聞読みを省略して慌ててテニスコートに向かった。朝はマッサージ機をかけてから活動することにしているから、この儀式を省略するのはなんだか不安だ。身体が固まったまま動くと腰に負担をかけそうな気がして省略できないのだ。ただ、歩くことを省略するよりはダメージが少ないかと思ってウォーキングを優先することにしている。  天気のせいか、いつもより回りが薄暗い。その分気温も低くて、ジャージか何か羽織ってくれば良かったと後悔した。車も通らずに人の気配も少なかった。野鳥が無防備に回りでさえずる。最近野鳥の種類が増えたような気がするが、それは人が減っていることの裏返しのような気もする。まあ、人間が地球を独占するべきものではないからいいことかもしれないが。いくら繁栄を誇っても、地球の大きな1発のクシャミでもろくも破壊されるのだから、ほどほどでいい。多くを持たず、身軽に暮らすに限る。何も持っていなかった学生時代に今でも心底あこがれている。自由があれば何もいらなかった。今は、手荷物一つ持つのがいやだった男が、分不相応な持ち物で不自由になり人生を空しくしている。 何となくいつもより世間の始動が遅いような気がした。明るくなるのも遅い。しばしテニスコートを周回してふと体育館にかけられている時計を見ると、時間が1時間早かった。眠気眼で確認した家の時計を見誤って出てきたのだ。早起きは一文の得にはならなかったけれど、学生時代の余りにも怠惰さで朝の6時か夕方の6時か分からなかった頃よりは少しは堅気に近づいているだろう。  黄色のゴミ袋を制覇したカラスの朝食にかき回される朝は帰り道に転がっていた。