寄り道

 もう2年近く前になりますが、○大の医学生だった大学生の息子にお薬をいただき大変お世話になりました、○○市の○○です。突然学校に行けなくなった子どものことをよく聞いてくださり、漢方を送ってくださいました。その後本当におかげさまで大学に戻ることができ、1年留年しましたが、先日無事国家試験にも受かり卒業し、県内の病院に勤めることができました。大学に戻った時点でお礼を言いたい気持ちでいっぱいだったのですが、ちゃんと結果が出てからのほうがいいかと思っているうちに留年してしまったのでお礼がこんなに遅れてしまいました。漢方の力と苦い薬の味が子どもの気持ちを元に戻したような感じでした。漢方飲んでる??と時々アパートをのぞいたり、あまりの苦さにお互い笑ったりしているうちに乗り越えることができたように思います。その時書いてくださった大和様のお手紙に本当に励まされました。冷静に考えれば、私の育て方にも、子どもの中にもきっと甘いところ、弱いところや間違ったところもあったと思いますが、あの時にとにかく受け止め、子どもの良さを認めてくださったことでどれだけ救われたかわかりません。立派な医師にはなれないかもしれませんが、自分のやさしさを生かして誠実に仕事をしてくれたらと思っています。震災で医師不足の情報を聞くにつけ、子どもがこの仕事を選んだことで猫の手ほどでも世の中の役に立ってくれればいいのだけれどと思っています。ありがとうございました。お元気でこれからもたくさんの方を笑顔にしてあげてください。繰り返し、ありがとうございました。お礼が大変遅くなりましたご無礼をお許しください。○○より

 よかったですね。寄り道をしてしまったあげくの到着の感慨は殊更でしょう。彼もそうだけれど、貴女も重くのしかかっていた荷物から解放されましたね。でもこの寄り道こそがこれからの彼の医師としての道をより豊にしてくれますよ。何一つ無駄のない内容の濃い1年だったと思いますよ。上手く行くことで見えなくなる物が多い反面、上手く行かないことで見える物が沢山あります。その多くの物達を見ずに成長することはある意味では不幸です。それを見たからこそ他者と共有できるものも多いのです。そしてそれらが多くは教科書や本で学べる物ではなく、何気ない仕草とか、何気ない言葉などによってでしか感知できない繊細な物なのです。これらの多くの気付きこそが、医師として現場に出ていく彼の存在の源泉になると思います。  せっかくの才能を頂き、磨くことが出来たのですから、これからはずっと与え続けることが出来る人であって欲しいと思います。これから彼の前に座る人は、ごくごく普通の人達です。決して選ばれた人達ではありません。多くの欠点や、多くの言えぬ過去を持ち、ひょっとしたら仕事を、家庭を、その日の食事代さえも失いかけている人かもしれません。口べたな、生き下手な人達の、医療上の良き理解者であって欲しいと思います。彼がお医者さんに無事なってくれたことで、僕が田舎の小さな薬局でお世話できる何千倍もの人を、それももっともっと苦しみ深い人達を救っていただけます。現在も幾人かの若い優秀なお医者さんやその予備軍を漢方薬でお世話させて頂いていますが、その最大の喜びはこれに尽きます。ああ、あの人が今日も大きな病院で何十人もの患者さんを世話してくれていると思ったら、感慨が込み上げてきます。幸せのおすそ分けを僕が頂いているようなものです。 ヤマト薬局