連呼

 いくら何でもそれは出来なかった。考え方の違いは誰にもあって当然だから、僕以外の70人くらいの人が拳を振り上げ「頑張ろう、頑張ろう」と連呼しても全く構わない。僕より年齢が上の人が半分以上いると思うのだが、元気だなあと心底思った。ただ、それでも僕には出来ない。 これだけ業界というものが問題視されているのに、その中の人達は至って元気で、それに寄りかかる気持ちはいささかも衰えていない。業界推薦の候補をなんとか国会にと思って懸命なのだろうが、それが国民にたいしていい事かどうかは分からない。さっきまで県民のために職能を活かそうと崇高な訴えをしていたのに、豹変して、おかかえ議員がいないと調剤報酬が増えないなどとせこい話に急降下する。僅か数分でコンビニ店員の時間給の何倍も稼げる処方せん調剤の報酬をこれ以上上げろと言うのは気が引ける。世の中にはもっと税金を回すべき所はあると思うのだが、どうも「師」がつく職業の人達もご多分に漏れずお金が好きなようで他の業種同様懸命に税金の奪い合いをする。 候補者の名前を印刷した配布物をあてがわれたが、全部置いて帰った。僕には業界を代表する人を推薦することは出来ない。僕自身にとっても職業上は大いにメリットはあるのだろうが、やはり政治家には国民全体を見て欲しい。その場の空気に合わせて拳を振り上げることは簡単だが、何かを得るために特権的な力を利用することを僕は好まない。どんな小さな声すら上げることが出来ない人が一杯いて、そう言った人達も薬局は日常の業務の中で沢山お相手しているのだから。その人達にこそ還元されるべき税金をこれ以上「師」がつく職業の人が奪い合う必要はない。

 人や職業の評価が経済面ばかり優先されて、徳が語られることが少なくなった。たまにその面が取り上げられるとすれば、財を成した人達の成功物語の中だけの話だ。経済的な裏付けがない、持って生まれた人の良さなど古典落語の中に閉じこめられて日の目は見ない。もっとよこせとガンバロウを連呼する人達に、少しだけでもよこせとつぶやく捨てられ人後ろ姿は見えないだろう。