寿命

 ダイアモンドがついているから現代の価格に直すと20万円くらいはすると教えてくれたが、その肝心のダイアモンドが見えない。持ち主も、確かこの辺りだったんだけどと言いながら捜しているから、元々大きくはないのだろう。二人とも眼鏡を外して捜すが結局は見つからなかった。それでも何十年か前に2万円で買った腕時計は、今でも自慢の代物なのだ。 そうしてみると僕はその面でも倹約をしている。卒業してから結局は一度も腕時計を持たなかった。30年以上持たなかったことになるからどれくらい倹約しているのだろう。腕時計を普通どれくらいの期間で買い換えるのか分からないが、10年に1度としても3個分は倹約している。  昨日残念ながらジーパンを一つ処分した。これも何年前になるか忘れたが、息子か甥にもらったものの中の一つだ。ついに太股の辺りが横断して裂けてしまい、さすがに薬局の品を落とすから処分した。というのは嘘で、外で履くのならまだまだ十分と思ってどう繕ってやろうかと見ていたら、股下が2カ所結構広い範囲で破れていた。これには全く気がつかなかった。いつから破れていたのだろう。そう言えば思い当たるふしもある。僕は皆さんより高い椅子に腰掛けることが多い。何となく僕と話している人が眼をそちらの方にやることが気になっていた。恐らく随分前から破れていたのだ。さすがに皆さん指摘しづらかったのか誰も教えてはくれなかった。もっともズボンの破れなんか僕の日常からしたら違和感は余りなく、気にもとめなかったのかもしれないが。  ついでにもう一つ。運動靴の寿命がかなり近づいてきている。かかとはもう余り残っていない。10年以上、いやひょっとしたら20年?履いていると思うが、一度も洗ったことがないから臭い。汚れはしっかりと染みついている。何処で脱いでもなくなる心配も、人のと間違う心配もない。ただ、まだ僕の捨てる基準には達していないのだ。僕が靴を捨てる基準は、雨の日に普通に歩いていても水がしみてくること。水たまりでないところを歩いていても靴の中までしっかりと濡れること。これさえ満たせばさすがの僕も諦めはつく。  正味5円か10円かというお茶を飲むのにペットボトルで飲む時代だ。最早飲んでいるのはお茶ではなく付加価値だ。石油や労賃、運送費を飲んでいるだけなのだ。物の寿命を全うしてやることを考えれば身の回りから贅沢や無駄が少しは消えていく。