前駆症状

 あるお医者さんの調査結果なのだが、とても興味深かった。と言うのは、最近急増している、いや人為的に増やされている懸念もないではないが、まあそれはおいといて、鬱病には先行して様々な不快症状が現れていたって言う内容だ。1年間で鬱病の診療が開始された2500人を対象に調べているのだから、これはかなり信頼できるのではないか。確率が高い方から低い方に列挙するが、高い方では30%を越え、低い方でも10%近い。  睡眠の導入、維持(要は寝付けない、途中で目が覚めるばかりすると言うこと) 慢性胃炎 神経障害 感染症と推計される下痢、胃腸炎(要はすぐに病気をもらいやすいって事だろう) 胃潰瘍 下背部痛 高血圧 高脂血症 皮膚炎 不安障害 身体表現性障害(いくら病院で検査しても何処も悪いところが見つからないのに、本人は不快で仕方ない、たとえば喉がつまった感じがするなど) 頭痛 便秘 自律神経失調 詳細不明の糖尿病逆流性食道炎 こういった症状が鬱病の前駆症状の可能性があるって事だ。本来ならどれも単独の症状や病気なのだが、そうではなく鬱病に先行して現れたものと理解することができる、あるいは逆に、これらのものが鬱病を引っ張ってくるとも考えられるだろうか。この症状を眺めてみると、結構僕ももっている。ひょっとしたら片手で収まらないかもしれない。ただ、この数年安定して持っているから、鬱病の前駆症状ではないのだろう。前駆症状だったらとうに発症している。また、僕自身皆さんを応対して思うのだが、笑える人は大丈夫って勝手な見解を持っている。話していて決して笑顔がこぼれない人は、病気と呼ぶべきで、笑顔がこぼれる人は「鬱々」の領域だと思っている。前者はお医者さんに任せ、後者はひょっとしたら漢方薬の方が役に立てる確率が高いと思っている。副作用もないし、薬も簡単に止めることができる。依存性がないのがかなりの長所だ。そもそも鬱々まで治療されたかかなわない。鬱々も人生の大切な肥やしだから。  今まで何人もの笑顔のない、少ない人を応対してきた。そう言った人達と対峙した時、僕の能力が試される。なけなしの知性や医学知識を動員しても仕方ない。元々そんなものはないのだから。僕に唯一あるとしたら、30年以上延べにして何十万人の人と薬局で接してきた体験だけなのだ。治る力は全員が持っている、悪人なんて滅多にいるものではない、治る方向に舵が切られるとスッと治っていく、強がっている人ほど苦しみを抱えている、若さに優る薬はない、短所がそのまま長所にもなる、元気すぎるのが一番危険、揚げ足を取る人は自分で自分の首を絞める、病気をしても太れれば治る、笑えば交換神経の緊張が緩む・・・あげればきりがないが、こんなつまらない体験の集積こそが僕の拠り所になっている。  薬局に入ってきて出ていくまでに、意地でも1回は笑わせたい。笑顔を忘れていた人がふと漏らす笑顔に優る感動は滅多に味わうことは出来ない。そんな喜びを時にいただけるから片手で収まらない不調を抱えながらも頑張れるのかもしれない。