本場

 さすが本場の人だ。漢方薬なら何とかなると思って来てくださったみたいだ。ただ、何処に行ったらそんな漢方薬が手にはいるかどうかが分からなかっただけみたいだ。 田舎の近隣は都会の近隣とはかなり感覚的に違うだろう。僕にとっての近隣は車で1時間くらいまでと想定しているから、距離で言うと20Km、いや30Kmくらいはあるのだろうか。お家が恐らくその「近隣」の範囲に収まっていたのだろう、僕がまいているチラシを見てくれた。僕の言う言葉をじっくり確かめるように聞き、ゆっくりと美しい言葉で返してくる。途中からこの奥さんは日本人ではないことが分かった。ご主人は日本人だったから、それは想像していなかったが、余りにも教科書的な綺麗な言葉だし、ゆっくりなので気がついた。全く日本人的な顔立ちだったので分からなかった。これが中国や韓国の方ではないアジアの人だったらすぐ分かるだろうに。 日本人にもこういった子供の体質は多いのだが、向こうでも多いのだろうか。緊張すると特にそうらしいが、普段でも手に汗をかいている。小学校の上級生になり友達と手を繋ぐときにいじめられたら可哀相だと言う母心で治して欲しいとのことだった。こうした子の特徴で穴患い(中耳炎や扁桃腺炎を)持っているものだが、案の定その両方を持っていたし喘息も持っていた。寝汗もかいて、それも又お母さんの心配事だった。  本場の人に試されるような感じ。フランス料理人がフランスの人に料理を出すようなものだろうか、中華料理を中国人に出すようなものだろうか、ベトナム料理をベトナム人に出すようなものだろうか、あとどのくらいの国の数を出せば公平に網羅できるのか知らないが、その様な感覚で薬を作った。以来3ヶ月真面目に取りに来てくれて、お母さんの希望のほとんどが叶えられたみたいで、合格したかなと思っている。綺麗な日本語だったが、初めて尋ねてきてくれたときの試験は結構厳しかった。言葉の壁を乗り越えるためか、目の奥まで覗くような視線が鋭かった。我が子を日本の薬局に託さなければならないジレンマでもあったのだろうか。  それにしても外国が近くなったものだと思う。出不精の僕でも外国が向こうから近づいてきてくれる。こんな田舎にいても、結構沢山の外国の人と接することが出来る。日常ごく普通に同じ共同体で生活していたら、かつてあったような国と国の争いなんてなくなるのではないかと期待する。誰もまさに今一緒に暮らしている人を傷つけたりしたくはないだろうから。偉い人達がいくら煽っても、普通の人達が仲良く共存していたら、いやだと言えるから。  漢方薬で世界平和に貢献できたと言ったら・・・・馬鹿にされる。