迷い

 5月末から過敏性腸症候群のガス漏れタイプの漢方薬を飲んでもらっている女性から悩みを聞いた。この3ヶ月くらい症状が無くなったから仕事につくらしいのだが、好きな販売系にするか、無難に事務系にするか迷っているというのだ。僕はその事を聞いてすぐに答えた。迷う必要なんて全くない。好きな方を選択すべきだ。好きなことをして暮らすことが出来ればそれにこしたことはない。好きなことだから頑張れるし、工夫も出来るし、より高きに上れる。仮に失敗しても、その努力はすべて報われる。努力したことがすでに結果なのだから。逆に、無難を選択して、なんとか平凡な日々が過ぎ去ればいいのでは、守りの姿勢そのもので、得るもの、掴むものはない。そもそも無難な場所で一応の生活が出来ても、それだけでは完治とは言えないのではないか。一番やりたいことが体調に足を引っ張られることなく出来て初めて完治と呼べるのではないか。  いつか彼女は、携帯が幾度ともなく途切れながら電話をくれた。いつもは家からだったがその時はお母さんが運転する車の中からくれたものだった。30年前、僕が岐阜を離れるときに後輩と一度だけほとんど素通りしただけの街に住んでいるのだが、勝手に記憶の風景の中で暮らす彼女を想像している。雪よけの長いひさし、片側2車線の狭い道、不釣り合いなジャズ喫茶、蜃気楼は見えなかったが、無彩色の海。どの様なお店で、どのようなものを売るのか分からないが、長身の北陸美人が僕の空想の世界を闊歩する。  自分の判断を許すことが出来る人生なら後悔はない。