痛風

 痛風はある遺伝子のせいだということがつい最近分かったみたいだ。今までどのくらいの人に嘘をついたことになるのか。運良くというか実力がないというか、僕の薬局には痛風の人が少なかったからかろうじてダメージは小さくてすんだ。皇帝病だなんて知ったかぶりをして、贅沢三昧を嫌みたっらしく指摘して、健康指導なんてのをやっていたのだが、遺伝子のせいだと分かれば、彼らに罪はない。「エビ、いか、シャコ、たこ」と滑らかに出る好ましくない食事も、こうなったらいいか悪いかなんて分からない。野菜では、貝割れ大根あたりが尿酸値を増やすとも言われていたが、そこまで言う必要など全くなくなるのではないか。痛風に使う漢方薬も持っているのだが、なにぶん病院で薬を飲めば尿酸値は簡単に下がるから、薬局に来る人は少なかった。もっとも自然派志向の方なら来るだろうが、総じて痛風患者は行け行けどんどんが多いから、一瞬にして効いた感じが持てる薬以外は飲まない。身体を綺麗になんてのは思いもよらないみたいだ。  今まで正しいように見えていたことが、何かの発見によってあっという間に間違い、そこまで行かなくても存在理由を無くしてしまうことがある。科学の発達でそんなことがますます増えつつある。昨日までの知識が役に立たないのならまだいいが、昨日まで間違ったことを推奨していたなら、又自分で実行していたならそれはショックだ。知識を広く求めながらも、謙虚にそれを整理しなければならない。専門家は多くを知っているから口は堅く、素人は知っていることが僅かだから口が軽い。  経験よりも遺伝子が優先されるのは寂しげでもあるが、人の心はすでに自然界の破壊より先んじて壊れ始めているから、今更DNAまで掘り下げても覆水は盆には返らない。創造と破壊が無秩序に連鎖する様は、DNAの螺旋階段をあえぎながら登る近未来の人達の姿と重なる。