不満

 よその薬局のことは知らないから実際がどのようなものか分からないが、ぼくの薬局は友人同士でくる人が結構いる。遠くの方が多いからか、観光がてらについてくる人が多いのだろうか。病気のことだからプライバシーを守らないといけないが、どのグループも結構本人の悩みを知っていて「今お友達の前で病気の話をしてもいいの?」と尋ねても、ほとんどの方があっけらかんだ。こんなオープンな関係を作っている人は、だいたいが治りやすい。薬局は死に病ではないからそこまで深刻ではないのかも知れないが、結構恥ずかしそうなものまで友人が知っている。僕はそんな関係を持っている人が訪ねてきてくれると嬉しくなる。数段治しやすいからだ。一人で抱え込んでいる人は本当に難しい。友人と一緒にやってくるのはほとんど女性で、えてして男は一人で頑張るから、心が閉じてしまって気が巡っていない。気が巡らないから血が巡らずに、身体のそこかしこに水が滞り不快症状を作ってしまう。滞りの最たるものは心のトラブルだ。口から出しただけ軽くなると全員に言うのだが、なかなか口から掃きだして捨ててはくれない。逆にしばしば訪ねてきて不満たらたらの人の治りやすいこと。
 別にサービスがいいのではないが、ぼくの薬局では結構美味しい飲み物やスイーツが出る。頂き物が多いから皆さんと分かち合うためだ。なんて言うと格好いいが、食べ過ぎて病気になるのを防ぐために、皆さんを道連れにしているとも言えなくもない。例えば美味しいコーヒーを飲みながら、運良くスイーツにもありつけながら、我が身の不運を嘆き、それは病気だけのことではなく、家族の悩み、職場の悩み、地域の悩みを含めて喋りまくって吐き捨てていくと、体調が一気に良くなる。僕のつまらない冗談に運良く乗れた人なんか、僕なんかよりはるかに元気そうな顔で帰っていく。漢方薬を飲む前から治っている人もいる。  そうしてみると、もう何十年も友人とやらが出来ず、嘗て一緒にたむろしていた先輩後輩とも会えない僕が、ただひたすら仕事をしているとしたら、病気から逃れられるはずがない。健康を職業にして健康を捨てているようなものだ。何に不満があるのかも分からないくらい不満だらけで、会えば不満ばかり言い合っていたあの頃、米と塩と煙草とコーヒーで何で健康でおれたのだろう。ろくな生活はしていなかったが、太平洋一杯分の不満を吐き出していたからだろうか。バケツ一杯の不満も我が身に溜めなかったからだろうか。 責任などと言う言葉を覚えてしまったばっかりに、僕もえてして頑張る男の一人になってしまった。