佐川急便

 ひょとしたらこの女性は10年近く我が家へ荷物を運んでくれているのではないかと今更ながら気がついた。日常の景色に全く溶け込んでいるから気がつかなかったが、恐らくそれに近い年数通ってきてくれていると思う。 佐川急便の大きなトラックと同じデザインの軽四トラックになったのは最近のことだが、それ以前はそこかしこで走っているごく普通の無地の軽四トラックだった。何故かしら彼女が運んでくるのは大きい荷物や、瓶ものの重い荷物が多くて、見ていて気の毒になり数年前までは僕も手伝ったりしていた。腰を痛めてから手伝えないこともあり、又若い女性が重い荷物を運ぶのをただ見ているだけに後ろめたさも感じるから、感謝の言葉だけでも添えるようにしている。  この種の職業に就く女性はたまにいるが、長く続いている人を見たことがない。1年も続いた人がいるだろうか。気楽なアルバイト感覚で始める人もいるのだろうが、恐らく体力が持たないのではないか。僕は彼女に特別興味を持つことはなかったが、つい最近偶然お子さんのカゼ薬を相談された。その時初めて挨拶以外の会話をした。若く見えるので、お子さんがいる、それも小学生と言うことに驚いたが彼女が仕事に熱心な理由が少し分かったような気がした。家族のために働いているからあんなに熱心なのだと僕の勝手な結論だが。 労働が作ったのか、それとも遺伝子が働いているのか、とてもがっちりした体格をしている。勿論女性だから脂肪を表面に溜めてふくよかにも見えるが、がっちりという表現の方が的を射てる。決して男勝りではないが、急ぎ足で入って来、急ぎ足で出ていく姿に仕事への真剣さが感じられる。偶然居合わせた他社の男性ドライバーが時々声をかけているのも仕事ぶりを評価されていることの現れだと思う。  幸せを測る物差しは持ってはいないが、幸せを垣間見ることは出来る。日常の景色の中に無数に隠れている奴を。