危ないところだった。今頃はどこかを腫らせて痛いような痒いような独特の不快さに悩まされながら働いていただろう。 田舎の人ならすぐこの体験は理解してもらえる。実感を持って分かってもらえるだろう。都会の人には逆に想像もつかないのだろうなと思う。田舎の夏の風物詩でもあるから、この季節に体験するってことは夏が何時までも居座っていることになる。 僕は妻よりかなり遅く寝るので、昨夜も妻を起こさないようにそっと押入から敷き布団を出してひいた。昨夜は偶然それに妻が気がついて、何を思ってかめずらしく蛍光灯をつけた。いつもは暗闇の中での作業なのだが。次に掛け布団をひこうとして僕は押入に顔をつっこんでいたのだが、「大変」と妻が大声で叫んだ。見ると敷き布団の丁度中央あたりに10cm位はあるだろうムカデがいた。なんでこんな所にと驚きながらもすぐに殺した。ムカデは対で行動していることが多いからもう一匹いる可能性が高く、それからはおちおち眠りにつけるような状況ではなかった。体は疲れているが頭は冴えてしまった。さすがにいつの間にか眠ってはいたが、恐らく神経はびんびんに張り巡らされていたと思う。  それにしても滅多にとらない行動を何故妻はとったのだろう。電気をつければ明るくなり眠りから覚めてしまうから、僕ですら気を使って暗闇で布団をひいているのに、自分で一番いやなことをした。電気をつけなければ、僕はムカデの上に寝ていただろう。恐らくあっという間に刺されてそれこそ眠れぬ夜を過ごしていただろう。こうした偶然に救われることは実は意外と多くて、難を避けれることがしばしばだ。何かに守られているのか、所詮世の中はこんなものか分からないが、虫の知らせで虫から守られたと思うのは虫が良すぎるか。寝不足気味のせいで今朝から僕は虫の居所が悪くて、苦虫をかみ殺したような顔で仕事をしていて、そんな僕を家族は虫(ムシ)している。