ラミダス猿人

 ああ、なんて僕は不運なのだろうと思った。新聞に載っていた再現図を見て、これなら勝てると思った。さすがに直立して膝まで伸びる長い手も持ってもいないし、木に登れる足の指も持ってはいないが、頭脳は明らかに僕の方が重たそうだし、顔の造りだって負けてはいない。その当時なら、恐らく僕はその共同体の福山雅治だろう。キャーキャーと声援を受け、調子に乗って木登りを競ったり、恐竜と勇ましく戦っていたのかもしれない。 恐らく1日中、何かないか、何かないかと、することを捜して動き続けることもなかったろう。外敵から身を守る為に気を休めることは出来なかったかもしれないが、森の中の果実や葉っぱや昆虫はふんだんにあっただろうから、空腹を覚えれば動けばいいし、満腹になれば寝ていれば良かったのではないか。服も着替える必要もないし、風呂にも入る必要がない、気の合う連中と草の上に座ってつまらないおしゃべりをする・・・あれっ、440万年前のラミダス猿人の話をしていたつもりだったのだけれど、僕の学生時代の話になっていた。何が似ているのだろう。  嬉しいことに僕らの祖先はチンパンジーみたいに犬歯が大きくないから本来的には争いごとが嫌いな種らしい。その辺りは進化しなくても良かったのだが、どうも立派な犬歯を持った現代人が、森の中からコンクリートジャングルに住処を移しているらしい。命を養う森から生まれた生き物が、命を削る場所ではまともには生きられまい。そのうち唇では隠しきれない犬歯で威嚇するダメダシ猿人がはびこるかもしれない。