山鳩

 何処でどう命を繋いできたのだろう、山鳩の鳴き声が朝の冷気を渡る。長い間この町で山鳩の鳴き声は聞いたことがない。どこからか住処を移してきたものかもしれないが、どこかで命を継承してきたと思えば同じ鳴き声でもいとおしくなる。 昨夜、試してガッテンという番組の中で、どこかの教授がスズメバチの弁護もしなければと言って諭してくれていたのが、古来、スズメバチの天敵はクマと人間だと言うのだ。人間の視点からすれば確かに命までも奪う猛毒をもった怖い生き物だが、彼らにしたら人間こそが、巣ごと根こそぎ命を奪う恐ろしきものなのだ。2メートル以内に近づいたら反撃するという習性も、子孫を守るためには仕方なく思える。そうした理由を知ればこれも又、スズメバチのあの羽音さえもいとおしくなる。 岸壁から沖を眺めるのは幼いときからの日常だが、海から陸を眺めることは滅多にない。たまに船に乗って自分が住んでいる町を眺めることがあるが、それはもう別の町だ。旅人が喜ぶのも分かるような風情がある。山が海に迫る僅かな平地に人々がひしめき合って暮らしている。まるで絵はがきのような風景の中で、金持ちとかそうでないとか、優秀なお子さんがいるとかそうでないとか、親切なお家だとかそうでないとか、働き者だとかそうでないとか、仲がよい家族だとかそうでないとか、土着の人間だとかそうでないとか、そんなことはどうでもいいような気がする。それぞれがひたすら懸命に生きている姿がそれだけで何ともいとおしくなる。 最近、この歳になってやっと人並みの感情を持てるようになった自分がいとおしく・・・ない。