余程訓練された犬なら、目の前におかれた餌を我慢することが出来る。ところがさすがに人間は訓練しなくても目の前の餌に惑わされることはない。ところが中にはかなり動物的な人がいて、食欲のまま振るまいいつもしっぽを振っていた。ところが与えられる餌が段々少なくなると、さすがにしっぽを振ることに屈辱を覚え始める。行方不明だった自尊心が見つかった。  遠吠えにはうんざりし、勇敢さもネタがわれている。何かを導いてもらうほど劣ってはいないと誰もが知っている。得体の知れない秩序の支配は、もろくも謙遜の前に沈んだ。柔よく剛を制するのは柔らの世界だけではない。岸壁から釣り竿を垂れ、孫を背負い、バイクにまたがり二人乗りで畑に向かう、校門でわが子を迎え、スーパーで品定めする、そんなありふれた光景に溶け込んだ人達が、誰にも文句を言ったこともなく、誰も頼める人がいないそんな純朴な人達がやっと腰を上げた。もうそろそろ交替させてくれと。  声を上げれば聞こえる、手を伸ばせば届く、そんなことさえ縁遠かった人達にやっと名札が配られる。本当は名も無き人々ではなく、理不尽無き人々だったのだ。