一人旅

 田舎ののんびりした薬局なのに、それなりに忙しく、山陰から2泊3日で訪ねて来てくれた青年を充分もてなすことが出来なかった。後日お母さんから「ヤマト先生が 毎日どれだけ忙しく仕事をしておられるのかわかったらしく自分もがんばろうと少したくましくなって帰って来たように思います」と言う内容の文面を頂いた。  もてなすことが出来なかったことを悔いていたからこの言葉は嬉しかった。いくつもの言葉を並べるより意味があったのかと安堵した。親なら背中を見せるのはしっかりしていることの象徴かもしれないが、他人が背中を見せても仕方がない。しかしそれで感じてくれることがあったのは僕にとっての救いだ。後悔もその言葉でやっと消すことが出来た。  それにしても嘗て僕に助言してくれた人がいるが、結婚するなら山陰の人と言うのも分かる気がする。青年のお姉さんも嘗て訪ねてきたことがあり、とてもよい子だったという印象が強く残っている。「空がまぶしい」という名言も残した。弟の方も礼儀正しくて謙虚だった。僕が相手が出来ない状況を見て娘が気を使ったのか、青年と話し始め、意気投合したのか長い間楽しそうに話していた。青年が帰ってから「末っ子だから下に弟がいたらこんなのかと疑似体験した」と言っていた。「お兄ちゃんが私を見ているような感じなんだろうなと、それならやはり可愛かっただろうな」と幼い頃と重ねて感想を言っていた。 例によって、牛窓の夕焼けをおばあちゃんと妻との3人でフェリーに乗って眺めてもらったが、ジンクス通り彼の悩みが解決することを祈る。そして山陰が育てたのか、その家が育てたのか分からないが、山間の故郷をこよなく愛する青年の初めての一人旅が実りあるものであったと言えることを祈る。