恩恵

 恩恵もそれにあずかることが出来る人と出来ない人があるのでは、とても恩恵とは言えない。恩恵という言葉には慈悲を感じるのだが、この国では長い間どちらかというと利益の誘導のような印象を与える言葉のように響いていた。その恩恵にあずかれなかった人達がやっと声を上げた。今まではおこぼれで充分だったのが、おこぼれでは生きていけないことに気がついたから、やっとまともに反乱した。長いものに巻かれていてもなんとか普通に暮らしていけたから、魂を質屋に預けていたが、魂以外に売るものがなくなったらさすがに魂だけは売らなかった。  いい目を半世紀に渡ってしてきた人は退場だ。代々、いい目ばかりでは不公平だ。何もかも上手く行っている人達の品の無さに壁壁としていたから、それらの顔とお目にかからなくなっただけでもすがすがしい。汚く罵る品の無さが垂れ流しになっていて、不快指数は極まっていた。謙遜を忘れた人、いやいや、元々持っていなかった人達の退場だ。  何処にも属せず、空しく朝を待つ人達に、手は差し伸べられるのか。口べたで要求することが苦手な人達に援軍はやってくるのか。恩恵などとは無縁だった人達に、些細な優遇は保証されるのか。  知ってか知らずにか、沢山のツバメが早朝乱舞していた。知ってか知らずにか夜中に鶏が鳴いていた。知ってか知らずにか誰も口にはしなかった。