鳥肌

 30年薬局をやっているが、患者さんに治ったと言われて鳥肌が立ったのは初めてだ。彼女に許可を取らないで書き始めたから、単なる表層しか書けないが、治るって結果だけは多くの人と共有したい。もっとも彼女は恐らく毎日僕のブログを読んでいてくれているし、まして最近僕のブログとホームページを全部フロッピーに編集してくれた人だから、さわりくらいなら書くことを許してもらえると思う。(いいよね) お母さんと他の目的で通ってきているうちに、陥っているトラブルを知りどうしても僕は手伝いたいと思った。人生で一番輝く頃を、失意のうちに過ごすのを目の当たりにするのは辛かった。ところが菓子パンが食事だった彼女に飲める薬は限られていた。飲めないものを渡しても仕方がないので僕は見本の煎じ薬を作って渡した。すると何と飲めたのだ。美味しいとはとても言い難いものを飲んでくれた。このようにスタートは全く僕のお節介で始まった。  この1週間のうちに、何と東と西の県に一人で遊びにでかけたらしい。外食もしたらしい。あの頃から言うと奇跡のようなことを次々と行い、それにもまして、表情がとても穏やかになり、太って体型がとても女性らしくなった。ジーパンで入ってきたが、体型などはもう別人だ。輪をかけたように穏やかな顔の表情、客観的な思考力はもっともっと別人になっていた。  彼女をこんなに解放したのは恐らく一番はお母さん、二番はあるお医者さん、三番は玉野教会の神父様や信者さんたち、特にフィリピンの青年やおばちゃん達、そして網走番外地の僕(妻と娘も)?彼女を近くから遠くから大切に見まもる人達の輪だったように思う。煎じ薬の能力を信じるが、過信はしていない。その為に一週間分しか渡さずに、一杯話した。日曜日は薬剤師の肩書きを持たず会ったりしたから、一人のおじさんとしても一杯話をした。僕は彼女が笑うたびにとても嬉しかった。その回数が増えれば絶対元の彼女に戻ると思っていた。いやいや、苦労した分もっともっと素敵な女性になると思っていた。いみじくも彼女は、回復して今まで出来なかったことをするのが本望ではなく、それは単なる通過点に過ぎないと言っていた。この言葉を聞いて、僕の、又回りの人達の思いが達せられたと思った。  青春はなかなか残酷なもの、未熟な理性に自身が脅かされる。その結果はい上がれない落とし穴に落ちて、なかなかそこから脱出できない。そんな人は一杯いる。きっと驚くほどいるに違いない。誰がどの様に手を差し伸べるのか知らないが、薬だけではまず治らないだろう。人の想いが9割、薬が1割、そんなものだろう。  どこにでもいるかもしれないが、それでもかけがえのない一人一人、誰もが落とし穴から脱出しなければならない。そうでないとあまりにももったいなく、不公平すぎる。誰もが人生を等しく謳歌すべきだ。今、そうした権利を手にした彼女に鳥肌が立ったのだ。  僕の失敗体験が役に立った瞬間だ。