愚問

 いったいどのくらいの高さを飛んでいるのだろう。声の近さに比べて見上げれば小さくカラスが旋回しているのが見える。島の上に昇った朝日はもう空を一面に青く染めていた。雲一つない朝の空気を透かして、僕はカラスを、カラスは僕を見ている。夜勤あけの中学校の大時計は観客のいない運動場の一人歩きを無機質に見下ろす。幾種類かの小鳥の鳴き声は、待ちわびた一日の始まり。朝はやってくるものではなく、ロープに繋いで引きずって来るものなのだろう。 「えっ、もう」と言うような時間帯なのに中学生が登校してくる。早朝の部活動なのだろう。この間まで小学生だったような背丈の可愛い子達が大きめのヘルメットを深くかぶり、黄色い声でカラスと競っている。身の危険がない、のどかな朝の風景に、平和とはこんなことを言うのだろうかと、平和な時代しか知らないのにふと思ってしまう。空から降ってくるものもなく、山の上から飛んでくるものもなく、水平線の彼方から狙われることもない。朝食のパンにバターを塗るか、イチゴジャムにするかが問題なのは、カラスが僕を見下ろしているのか、僕がカラスを見上げているのかを問うくらい価値ある愚問なのだ。