劣化

 子供の時に覚えた泳ぎがいつまでも出来るのと同じように、あの頃鍛えた数学の力がそのまま衰えもせず残ってくれていたらいいのだが、なかなかその辺りは怪しい。幸いに、僕の数学の力を未だ試してくれるような存在がいるので、時に問題に向き合うのだが、ゆっくりと下降線をたどっていることだけは分かる。  つい最近、中学3年生の問題で間違ってしまった。これは結構ショックだった。集中力も持続しなくなって、問題に向かったときにブロッキングが起こってしまうことすらあった。受験生だったら致命的だ。集中しようとすればするほど、意識が問題から逃げていった。大人の都合の良いところで、それで失うものがないから、ブロッキングを打破する集中力を呼び起こすこともしなかった。何となく回答したのが自分でも分かったのだ。間違ったことがショックだったのだが、集中できなかったこともショックだった。恐らく数学だけでなく、仕事も含めてありとあらゆる分野で進行している劣化なのだろう。  自分が日々繰り返していることだけがなんとか能力を維持している。そんなもの職業以外には余り無いので、完全に外堀は埋められている。政治でも経済でも、所詮その程度の人間が、あたかも能力が持続しているかのように錯覚して、老害を垂れ流している。内堀も埋められているのに、未だ天守閣から下々を眺めている。  今夜、数学が痩せて算数になった。このまま行くと残るのは早晩、そろばん勘定だけになりそうだ。