幼子

 その場にいた誰もが一様に驚いたのは、3才手前の男の子が、1時間半の間、だだをこねず、大きな声も上げずにじっと我慢していたことだ。時にはお母さんに抱かれ、時には床の上に立ち、何も遊ぶ物もなくよく我慢したものだと思う。かなり希有なことだと思う。何が違うのだろうと父親に聞いてみたが特に思い当たることはないみたいだし、母親は日本語が分かるのかどうか判断できなかったので、敢えて尋ねはしなかった。ただ僕が「とても我慢強いお子さんですね」と二人に声を掛けたら、お母さんはすぐに微笑んでいたから日本語が分かるのかもしれない。  西洋人の赤ちゃんはまるでキューピーのように見える。もっともそれを模して作ったのだろうから当たり前の話だ。お母さんは僕にとっては今まで全く縁がなかったロシア人だそうだ。とても静かな人って印象を持った。ご主人も穏やかそうな人でお子さんへの優しさが溢れていた。国を越えて作られた家族にほほえましさが倍増する。こんな幸せを誰もが作る権利を持っている。僕が薬を作っている多くの若者達も同じだ。不調なところがあるからと言って、幸せを追求しない手はない。不調を克服することと、幸せを追求することは同時進行だ。きっとお互いが好影響をもたらすだろう。元気になって、自分自身を解放し、他者に少しでも役に立って欲しい。多くの若者は、僕なんかは手が届かないくらいの生命力と好奇心と行動力を持っている。知識も多い。多くの長所と少しの欠点を持っている。自信を持って、果敢に立ち向かって欲しい。常識なんかに屈服せずに、自分を主張して欲しい。あの凛として立っていた青い目の幼子のように。