旋律

 星がなければ夜に空はない。月が照らす雲がなければ空はない。底がない黒に塗り潰されたカーテンがあるだけだ。カーラジオから流れる低音の弦の響きは、ビオラなのか、重厚に旋律を奏でる。他者を寄せ付けない響きに、前を走る車のテールランプを見失いそうになる。何処に帰っているのか、時間さえつかめずに、ただハンドルをかろうじて握っている。 さっきまで10数人と勉強し、その後食事をした。僕より遙かに先輩もいるし、後輩もいる。華々しく活躍している人はいないが、地域でそれぞれに役に立てるように努力している人達だ。漢方薬だけで繋がっている人達だが、地味ではあるが努力家達だ。しかし彼ら自身、僕を筆頭に健康にかなりの不安を持っている。入院して医師の世話になった人も数人いるし、医師の治療を見限って、鍼灸の先生の治療を受けている人もいる。自分で数種類の漢方薬を飲んでいる人もいる。どの職業の人も現代は、健康を差し出して生活の糧を得ているようなところがある。薬局だけがよく働いて、ストレスを一身に引き受けてなんてことはない。だけど、それぞれにスピーチをしてもらったが、不健康の集まりみたいな笑えない現実が露呈された。このような仕事をしていることが何ら健康であり得る保証にはならないのだ。ひょっとしたら有病率から言えば他の職業に決して劣りはしないのではないか。完全な健康体でカリスマを気取るような人はいないから、それぞれの告白が痛々しい。ふと入ってきた人が健康を取り戻す、そんな喜びの積み重ねもまた健康を保証するものでもない。  黒いカーテンに、幾人かの顔が浮かぶ。それぞれの町で、それぞれの顔を照らす星も月も登るのか。