不可解

 番組の途中から偶然見たのでその小説家(?)が誰か分からない。鋭い目をしてさすがにその種の顔をしているななどと、身のはいらない見方をしていた。何の番組かも分からなかったが、その小説家の語りが延々と続いていた。途中分かったことは、その小説家が5年前脳梗塞を患ったことぐらいだった。今では携帯電話とパソコンで多くの執筆をしているとナレーションが入った。  彼が真剣に語り続けて、最後に導いた結論が僕にはかなり不可解だった。何を今更という感じだ。彼自身のものも含めて今までの小説は成功者を主人公に書いているものがほとんどだ。これからは、虐げられている人達の目線で書かなければならないというようなことを言っていた。2009年はその様な時代になるなどとも言っていた。自分の作品のことならまだしも、一般論で語っていたのが気になる。僕はそんなおめでたい登場人物の小説なんか好んで読んだこともないから、今思い出すことも出来ない。元々全く読んでいないか、感銘も受けずに忘れてしまっているかだ。派遣切りで路上で暮らす人達が増えたことを憂えているのか、自分の病気が引き金でやっと底辺を見る気になったのか知らないが、どちらにしてもプロの物書きが今更言うことではない。どの水準の読者を想定しているのか知らないが、少なくとも今までは、地を這う人達に読んでもらいたいとは思っていなかったはずだ。  小説などより遙かに現実は悲惨だ。政治の恩恵を一番必要としている人達が一番政治から離れ、自力でも繁栄を謳歌出来る人達がより政治を道具に使う。若者は生かさず殺さず体温のある工具になり、年寄りが莫大な富を蓄える。売って金に換えるものを何も持たない若者が、金で全てを手に入れれる年寄りに飼われ捨てられる。  貧困は取材の対象ではない。貧困は心より先に肉体が朽ちること。