夫婦

 理想論を説くのは簡単だが、現実の方が説得力がある場合が多い。夫婦の関係だってそうかもしれない。理想論から遙か離れた現実に嘆くことはない。縮まらない理想との距離にあえぎながらでもなんとか頑張っているのが多くの夫婦なのだから。毎年脱落するカップルも20万組以上いるのだから破綻しないだけでも立派だ。  漢方の世界では、夫婦は相克の関係にある。と言うことは、お互い相手をやっつける関係なのだ。相手を負かして自分を生かす関係なのだ。だから夫婦が仲が良いなんて本来的にあり得ない。僕の薬局では、皆さんざっくばらんに話すから、如何に夫婦がお互いを苦痛の存在として捉えているか良く分かる。それは異常なことではなく、本質的な関係なのだ。嘆くことではない。だから何十年も仲良くあり続けるなんて至難の業なのだ。傷つけ合いながらそれでも何とかやっているのは、便利だからだ。この世の中の全ての制度が夫婦を基準に成り立っているから、その制度からはずれるとなかなか恩恵を受けれないのだ。 仕方なく夫婦関係を維持しているのが本音だ。余り窮屈な道徳的な価値観を理想視して現実の境遇を嘆くと自分を捨てることになる。誰かが言っていた。秘めたるは愛。秘密がある間だけ魅力は持続する。お互いの能力を全部見せ合ってしまえば魅力は色あせる。つかず離れずなんとか持った夫婦は、幸せだ。一生愛し合えた夫婦は奇跡だ。たまにそんな奇跡が存在するから、そしてそれが美談で流されるから、なんとかレベルの夫婦にとっては切なくなるのだ。唯漢方理論ではそう教えてくれているから、やはり生薬は気持ちにも身体にも優しい。