疲労

 日曜日にまずやることは、ギターの調弦。毎週フィリピン人のコーラスの伴奏するために1週間緩めておいた弦を張る。大したギターではないと思っていたので弦を張りっぱなしにしておいたが、鍼の先生が昔のギターは価値があるから大切に扱うように教えてくれたので一応助言に従っている。  昨日の朝もまず最初の作業としていつものように弦を張り始めた。すると、3弦と4弦が立て続けに切れた。弦が切れるときは金属だから結構いやな音がして、一瞬びっくりする。それが立て続けだから2度びっくりした事になる。そして2本がほとんど時を同じくして切れたことそれ自身にもっと驚いた。何かいやなことが今日はあると、ミーハー的な会話を妻と交わした。なんやらの泉かなんやらの水たまりか知らないが、およそその世界だ。  と言ってもそんなこと家を出る前にはすでに忘れていた。昼過ぎにあるところで用事を済ませた。いつもなら狭い駐車場に10数台びっしり詰め込まれているのだが、その時間はみんなが帰っていて、僕の車と居残りの人の車2台だけだった。10数台の車が入る広さに車3台だから余裕の空間があった。帰るためにその広い場所で僕はゆっくりとハンドルを回して出ていこうとした。何となく居残りの車と近いなと思いながらゆっくり動かしていたら助手席に乗っていた若い女性があたっていると教えてくれた。衝撃がないからぶつかっているのではなく、押しているような感覚だった。何となくそんな感じも車体から伝わってきた。降りてみるとやはり居残りの車の前部の塗装がはげていた。僕は車には全く興味がないので、塗装がはげているだけだからなんでもないと思ってしまうのだが、好きな人はメチャクチャ好きだから、勝手な判断は出来ない。すぐ持ち主を連れてきてみてもらった。  虫の知らせにしては寒すぎた一日だった。虫もどこかに潜んでないと凍死するだろう。犬を連れて朝歩いたら雨上がりの水たまりが凍っていた。休日だから緊張感がさすがにないのだろうが、今思えば蓄積した疲労感を仕事でごまかしていたように思う。その後うつらうつらとして身体から疲労を追い出すのにかなりの時間を要した。偶然の背後にもこんなありふれた単純な日常が横たわっている。人の目を正面から見ることが出来ないような人間が、何かが見えると視線を逸らす仕草が視聴率を稼ぐ。日常のたちの悪い茶番。