セコム

 我が家の優秀なセコムも、寄る年には勝てなくて最近は全く仕事が出来ない。若かった頃はおよそ人間の耳では聞けないような音を察知して、ずいぶんと精度の良い警告を発していてくれた。非科学的なことを言うが、我が家の前で2度大きな交通事故があったが、その都度ずいぶん前から大きな声で吠えていた。予知能力があるのだろうかと未だ妻は話題にする。   散歩の途中でしばしば溝に落ちる。目は白く見えるからかなり白内障が進んでいる。耳は傍を通っても気がつかないくらいだからほとんど聞こえていない。耳元で叫んでも知らぬ振りをしている。ただ、さすがに嗅覚だけはまだ健在らしくて、遠くでお菓子の袋でも開けようなら、途端に動きが激しくなる。  こんな老犬にうって変わってセコムを始めたのがミニチュアダックスだ。それまでは大柄なクリに守られてこれで犬かと思えるくらい無防備だったが、クリが頼りなくなってから俄然セコムを始めた。超小型犬なので姿を見られたらおしまいだが、家の中から吠える分にはそれなりに迫力はある。見え難い、聞こえない老犬にとって屋外は不安なのか、家の中に入れてくれとしばしば泣くようになった。雑種にしては破格の待遇で2階のリビングに連れて上がった。それでも泣き続ける。しょうがないので、試みにミニチュアダックスを側に置いてみた。すると安心したのか泣きやんで、惰眠をむさぼっている。大型犬が小型犬の側で安心している姿は、ほのぼのとした情景でもあるが、何故かもの悲しくもある。小型犬を引き取ったときからずっと優しくいたわってきたクリが今逆に見守られているように見える。どうしても人間の視点で見てしまうから、介護されているかのように見えてしまう。老いて先に逝く宿命を背負いきれずに1日中不安で泣いているように見える。  命あるものの宿命を変えることは出来ないが、10数年の感謝を毎日伝えてやりたい。こちらが与えられるものばかりだった。首輪に紐に、あんなに不自由を強いたのに、いつもしっぽを振って・・・だめだ、涙が出てきた。