物欲

 物欲はない方だと思うのだが、いま、あれがあったらいいだろうなと言うものがある。薬局のちょっと南、犬の散歩コースに出来たリゾートマンションだ。勿論住んでみたいというのではない。遠くからやってくる相談者が気兼ねなく泊まれるスペースとして確保できたらいいなと思うのだ。牛窓で一番背の高い建物で、まさに海の傍に立っているから、景色は抜群だ。夕日百景に選ばれている日没も堪能できるだろう。勿論鏡のように光る瀬戸の海面を漁船やヨットが走るのを眺めていても、都会や山間部の人にとっては心が落ち着くだろう。病気が治らないのには一杯理由がある。本来治る力はほとんどの人に十分備わっているのだが、それを十分発揮できない理由があるからだろう。生活環境の中に恐らくそれは凝集されている。その現場を離れないと治らないものが多いのではないだろうか。そういった人達に提供できたらなと思うのだが、手が出る値段ではない。我が家が農家で田圃でも売れるのなら何とかなりそうだが、売れるものは何もない。こうなったらサマージャンボにかけるしかないが、10枚買ったくらいではあたらないだろう。  漢方の非力をマンションで補おうという魂胆が見え見えだが、漢方でも景色でも、治ればいい。同じように生まれ落ちて、せめて健康だけでも平等でありたいものだ。痛いも、しんどいも、かゆいも、もういい。自分の努力不足なら受け止めるが、遺伝子のなせる技も、劣悪な環境も本人には責任がない。誰もが同じくらい笑って暮せれたらと願わずにはおれない。  今日、そのリゾートマンションの宣伝を手がけているという会社のセールスが、ポスターを貼らしてくださいと言ってきた。来月出来るらしい。快諾したが、薬局に貼らずに、寝室に貼って、物欲しそうに毎晩眺めながら寝ようかと思った。