痛し痒しとはこのことだろうか。中学生のころからある症状で苦しんでいた青年が、半年漢方薬を飲んでくれたおかげで体調がすこぶる良くなった。都市部の人なのだが、牛窓に農業の手伝いに来ていた。恐らくバイトという待遇だと思う。中高一貫校に行っていたらしいがその症状で勉強できずに、不本意な大学生活だったようだ。卒業してもちゃんと働く自信が無く、ストレスがかからなくて自然を感じながら働ける環境を求めて、農業の手伝いを選んだ風に見受けられる。あまりおしゃべりな人ではないから、詳しくは聞けないがおよそそのような流れだ。その彼が今度正式な仕事に就くことになったと話してくれた。彼の能力や性格からしたら体調さえ許せば、それは可能だろう。恐らく本人の希望だから喜ばしいのだろうが、ただでさえ若者の少ない農業から若者が1人離れていくのは寂しい。体格が良く汗を一杯かいて薬局に薬を取りに来ていたが、ひょっとしたら次はスーツで現れるのだろうか。僕の漢方薬も少しは役に立ったのかもしれないが、彼が太陽の下で一杯汗を流したことがもっと効いたような気がする。彼が望む仕事に就けることは嬉しいが、彼の日常から自然との関わりが無くなることは寂しい。体調が後戻りしないことを願うだけだ。  油代が高くて休漁する漁船が相次いでいる。ハウス栽培が赤字になる話題も事欠かない。額に汗して働かない人間達の思惑で、もっとも大切な産業が困窮している。誰のおかげで生命を維持しているのか考えもしない人種のせいで、健全な生き方をしている人達が割を食らう。地球の反撃は、札束で防げると思っているのか。自分たちだけは浮沈の軍艦に守られていると言うのか。誰が誰のためにあるというのか。誰もが、誰ものためにあるのではないのか。耕した土の上に落とす汗が無くて、皿の上に一切れの命も盛りつけられない。