達人

 男と女の2人連れが入って来ると、呼び方に苦労する。夫婦と分かれば簡単なのだが、夫婦でない場合もあるので、気軽に呼べない。  脊椎管狭窄症と言うトラブルで漢方薬を取りに来ている80歳代の女性は、岡山市から牛窓まで来る足がないので、ある男性に連れてきてもらっている。同世代の男性だからご主人か、お兄さんか弟かくらいに考えていたが、今日「この方は元気でしょう、90才ですよ。ご近所の方ですが、私が足がないから連れてきてもらっているの」と教えてくれた。まず90才というのに驚いた。とてもその年齢には見えない。近所の困っている人のために、30分の道程を運転して連れてきてあげれる体力、気力に脱帽だ。薬を作っている間に、薬局内の健康情報に目をやったり、2人で会話を楽しんでいる。会計が近くなると、先に外に出て車の向きを変えて安全に幹線道路に出れるようにしている。歳を感じさせるのは、補聴器だけだ。しかし、そのおかげで会話にも全く不自由しない。元気ですねと言ったら、だめですよと言っていたが、その謙遜ぶりが又いい。医者嫌いの薬嫌い、たまに見かける幸運な人の1人だ。あの年齢で、そのどちらにもお世話になっていないのだからすごい。  大いなる努力が隠されているのか、全くの幸運か分からないが、朝目覚めれば今日はどこが悪いか一番に確かめる僕とは、雲泥の差だ。年をとれば同じ歳でも、プラスマイナス10位違うと言うが、まさにマイナスの10だ。いやそれ以上だ。年齢から言うと脳の重さは10数%減少しているはずだが、その振る舞いからは想像できない。さりげない気配りにただただ感心した。まるで老いの達人だ。