好感度

 「いい意味でも、悪い意味でも田舎でのんびり育っていますから」とお母さんは謙遜するが、悪い意味なんか全くない。中学生のお子さんからは、育てられ方の良さがにじみ出ている。隠そうにも隠せないくらいだ。「牛窓とよく似ています」と言うからかなり田舎から来たのだろうが、中学校の名前を聞いて納得した。僕が幼いときに預けられていた母の里の隣町なのだ。峠を越えていけば今なら簡単にいけるところだが、幼い子供にとっては異国の地みたいな印象を持って、大人達の話の中に出てくるその地名を聞いていた。  それこそ牛窓と同じように海岸沿いに町が伸びて、後ろには山が迫っている。同じ瀬戸内だから景色も穏やかで、人も穏やかだ。友達のみんなが同じようにすれていなくて、少人数の中学校を形成していると言う。しっかりとした受け答えの中に、純真さが伝わってくる。思わずお母さんに「上手く育っていますね」と言ってしまった。当人達は気が付かないかもしれないがとてつもなく大きな財産を得ている。どれだけのお金を積んでも手に入れれない価値だ。何が無くてもこれさえあれば・・・と言うものを持っている。なかなかそんなものを持つことは出来ない。世俗的な価値などその子を見ていると何の意味も持たない。  薬局をやっていて一番得したなと思える瞬間かもしれない。残念ながら病気が縁になってしまうが、驚くほど綺麗な心の持ち主に時々会えることがある。悪意というものを持ち合わせているのだろうかと本気で考えてしまう人がいる。何の虚飾もなしに、無防備に自分をさらけ出し、それでも圧倒されるのだから並の好感度ではない。持って生まれたものか、親が授けたのか分からないが、回りを一瞬にして幸せな空気にしてしまえるその子と家庭と風土に感謝。願わくば訪ねてきてくれた体調不良が改善しますように。