窒息

 夜が突然に落ちてくるものだから、心の扉を閉めておく間もない。混乱をどこかに捨ててしまえるなら、うつむいたまま冷気の侵入を許すこともないのに。難問は平気な顔をしていつも隣に席を用意する。冷静を装わなければならないほどの動揺も、地殻を揺り動かされては隠せない。  自殺は他殺だ。自分で自分を追いつめるような人間はいない。追いつめられたのだ。いくら手を差し伸べても家族や、職場や、近隣ではどうにもならないことがある。夢も希望もない人達に、栄耀栄華をこれでもかこれでもかと繰り返し見せつけるマスコミに殺される。あたかも階級制度を復活させたような政治に殺される。行く道がないのにどう生きる。たどり着くところがないのにどう生きる。共に歩む人がいないのにどう生きる。約束された幸せが無いのにどう生きる。  現代は、酸素を含まない空気を吸っているようなものだ。息苦しいだろうな。手を差し伸べてくれる人もなく、振り向いてくれる人もいないとしたら。公はもう公でなくなっている。助けてくれと叫んでも届かないところにってしまったのか。それとも、聞こえて聞こえない振りをしているのか。  今もどこかで窒息しそうな人がいる。救えないのは社会の非力。